10年たった

夫の突然の失踪から10年の歳月が流れた (2009年時点)。
夫と長女がいない失意の中で出産した次女は9歳。
人見知りが激しかった。
小学1年から家庭連合の合唱団に入った。
通っていた音楽教室の初めての発表会では 母親から離れず、 舞台のピアノの陰に母子で並んだほどだったが、今は人前で堂々と歌う。
神性に満ちた美しい表情で発する歌声を聞くとき、Tさんは言い知れぬ感動に満たされる。
だから、「この子が成長し、 祝福を受けてもらえるように頑張らねば」と自分を励ますTさん。


母子家庭ゆえに、経済的に楽ではない。 だが、彼女の悲しみは別にある。
「どんな時がつらいですか」と問うと、Tさんはこう答えた。
「いつの時もつらいです。 子供にとって生まれた、いえ、生まれる前から父親は、
そばにいないので、家の中に父親がいないごとに違和感はないようです。
また、それがつらいです。


先日、 教会に向かう途中 『お母さん、 赤ちゃんが ほしいね。 弟が欲しいよ。 産んで!』と言われ、答えに困ってしまいました。
これから、いろいろなことが分かってくるに従って、
どのように伝えるべきか悩みます」


Tさんは今でも、夫の姓で通している。
「いつの日か、彼と長女が帰ってくると信じているからです。 とTさんは語る。
引き裂かれた家族が再び一緒に過ごす日が来ることが私の夢であり、希望なのです」


無理やり夫や娘と引き裂かれたTさんの苦悩は今もなを続いています。
これは悲劇以外の何物でもありません。